■Kevin Godley Interview - In Godley We Trust -by Michael Bjorn / ケヴィン・ゴッドレー・インタヴュー(ゴッドレイ、信頼してるよ) : ミカエル・ビョルン
Interview and text : Michael Bjorn AI-based transcription : otter.ai
2017年、10CCの創設メンバーの一人であり、主要なクリエイターでもあったケヴィン・ゴドレイはもう一度アルバム作りに挑戦することにしました。『Muscle Memory』というタイトルにしたのは、ゴドレイ&クレームの最後のアルバムから約20年が経っていて、自分の心と身体がまだあのようなアルバムの作り方を覚えているかどうかわからなかったからでした。
その間に、ミュージック・シーンは見違えるほど変化していました。けれども常に音楽(映像も含めて)制作の最先端を走ってきたゴドレイは、これを障害というより好機ととらえたのです。彼はその頃人気のあったファンとダイレクトに繋ぐプラットフォーム“PledgeMusic”を利用し、クラウドソーシングでアルバム制作することにしました。けれどもケヴィン・ゴドレイらしく、他の人よりもひと足進んだクラウドソーシングのアイデアを取り入れることにしたのです。どんな人でも誰でもアルバム用の音楽を送ってくれるように公募し、クリエイティヴなプロセスそのものをクラウドソーシングすることにしたのです。
286曲の応募があり、誰かを贔屓したり嫌ったりしないように応募者の名前を確認せずに聴いて、その中かから11曲を選んでアルバムのベースにしました。けれどもアルバムのレコーディングが完了する前の2019年5月、PledgeMusicが突然倒産し、ケヴィン(当時PledgeMusicを利用していた他の多くのミュージシャンも含めて)は、全くお金がない状態になってしまいました。ほとんどの作業にはGragebandを使用していましたが、最終的なオーヴァーダビングやミキシング、マスタリングのために専門のスタジオが必要だったため、いくつかのインディペンデント・レーベルに連絡を取り、最終的にState 51と契約を結びました。
その後、2020年の大半にデジタル・シングルとして楽曲を分割し、2021年初頭、フル・アルバムとして完成させました。その結果、一風変わった楽しいアルバムが出来上がりました。ケヴィンの素晴らしいヴォーカルがすべてを満足させる統一感のあるものにしてくれています。このアルバムの制作についてケヴィンに聞いてみました。
──2017年のある時……何人かの人が録音した楽曲を送ってきて、作業を依頼してきたのでしょうか?
「ああ、二人の人が突然、全く突然、2曲のインストゥルメンタル曲を送ってきたんだ。それで何か書いて、それを歌うことができると思ったんだ。その通りにしたよ。そのプロセスはとても楽しかった。それでそのアイデアを元に、人に声をかけるのではなく、PledgeMusicを通じてあらゆる人にオープンにしてみたら、予想外の結果を得ることができた。誰かが何かを送ってくれるかどうかもわからなかったけど、たくさんの人が来てくれて、とても励みになったよ。長い話を短くすると、その山の中から、ヴォーカル、メロディ、歌詞的に、何かを作り上げることができるトラックをいくつか見つけることができた。だから僕は一度も会ったことのない人たちと仕事をしたんだ。今回のプロジェクトとは関係ないけど、この期間中に僕が唯一会ったのはGotyeだよ」
──使っていたクラウドソーシングの会社が倒産してしまったことで、楽しみが半減してしまったのではないですか?
「とても残念だったよ。PledgeMusicの件は本当に残念だった。倒産したとき、僕は何をすればいいのかわからなかった。でも手がかりは逆の方向にあって、インディペンデント・レーベルと話をすることだった。それで出会ったのがState 51の人たちだったんだ。彼らは僕に彼らと組むように言ってくれて、そうしてよかったと思う。それが他の人たちにどんな影響を与えたのかは想像できないけど、ある特定の道に沿って一生懸命に仕事をしてきて、その道が自分が進むべき道だと思っていたのに、そのカーペットがきみの足下から引き剥がされてしまったら、とても辛いよね。どうやって再構築するべきか知るのはとても難しいことだよ」
──残念なことに、最近のレーベルはアルバムを出すことには積極的ですが、レコーディング・プロセスには一切資金を提供していないところが多いですよね。
「このレーベルが素晴らしかったのは、アルバムを完成させるために十分な金額を出してくれたことだよ。というのも、レコーディングの初期の段階で、いいマイクといいインターフェイスを手に入れ、GrageBandで作業することを決めてたから、必要な金額は思ったよりもかなり少なかったんだ。だから手間がかかる部分のほとんどは自宅でやったんだ。僕が歌っているだけだからね。実際の最終作業、ミキシングやマスタリング、追加のレコーディングなどは専門のスタジオで行ったんだ。このお金は僕を支えてくれるものだった。僕と僕の妻の生活を支えながら、十分な時間をかけて作品を完成させることができたんだ」
──あなたに送ってくれた人たちはどのような貢献をしてくれたのでしょう?
「多種多様だったよ。中には僕がやりそうなことに合わせてくれた人もいた。録音したものを送ってくれたけど、扱い方がわからないものだったものもあったよ。ジャズ、ブルース、アヴァンギャルド、サウンド・デザインのようなものなど、すべてを聴いてその違いを理解するのはとても大変だったよ。非常にシンプルで基本的なものから、すごく重ねられたもの、とても複雑な作品まであったね。すぐに自分ができることが十分かどうかということがはっきりしたよ。十分にできれば、論理的な結楼を得ることができるけれど、そうでなければ、ただ次に行くだけだ。全体をまとめるという意味では、大勢の人たちと一緒に仕事をするのと変わりはない。ただ、そこに彼らがいなかっただけさ」
──あなたがこれを始めたとき、コラボレーションの意味はどこか違っていました。今は、多くの人たちがどこにも行けないし、国境も閉ざされています。
「今の言葉で言えば、“リモート・アルバム”なんだろうね。きみが言うように、今の状況は2017年には存在しなかった。今、この企画が持ち上がったとしても、変わったやり方とは思われないよね。だけど当時はそうだった。そして僕が実際にアルバムをリリースできたのは、ロックダウンのわずか3週間前だったよ。よかった。そうでなければ、ミックスもできなかったと思うよ。マスタリングもね」
──このアルバムは『マッスル・メモリー(Muscle Memory)』といいますが、僕のテニスのコーチによれば、“マッスル・メモリー(筋肉の記憶)”というものは存在しないようです。すべてあなたの頭の中にあることです。
「なるほど、もっともなことだ。だけど僕は脳を筋肉のように考えていた。一方でこのやり方を思い出したいという希望があり、その一方ではこの方法を覚えていた。つまり存在しないタイトルに鉤括弧がついているということ。本当に久しぶりにこれができるようになったということなんだ。自転車の乗り方は忘れないものだし、泳ぎ方だって忘れることはない。彫刻家や建築家、ソングライターなど、クリエイティヴな仕事をしている人たちは、そのやり方を忘れることはないと思うんだ。そして一度やってしまうと、それは喜びなんだよ」
──また、政治的な状況もこれまで以上に二極化していると思います。このアルバムは異なる世界で作られたものですが、テーマ的にはぴったりですね。
「このアルバムと、ゴドレイ&クレームのアルバム、10CCのアルバム、そしてGG/06としてのグレアム・グールドマンと一緒に作った作品との根本的な違いは……鎖が外れているということ。つまりこのアルバムは、誰にも肩越しに見られずに自分自身を表現した初めての作品なんだ。“こんなふうにしてみたら?”とか“こんなこと言っちゃダメだ”とかって言われることもない。アーティストは時代を反映すべきだと思う。別に必死にそれをやってたわけじゃなくて、結果的にそうなっただけだ。最初に手をつけた曲は、〈All Bones Are White〉だけど、これは2017年にシャーロッツヴィルで起きた事件(★註1)の直後に歌詞を書いたんだ。普段は政治的な歌詞を書くことはあまりないけど、とても愕然としてしまってね。それでそれが他の曲の方向性を少しずつ決めていくことになったんだ」
──「Hit The Street」は薬物中毒についての曲のようですね。この曲のヴォーカルと、とても寂しげな雰囲気がとても気に入っています。
「曲を作っているときに頭に浮かんだイメージは、チェット・ベイカーの最後の瞬間だった。そしてこの曲のシンガーはヘロインだ。シンガーが“そろそろ路上に出ようか”と言っているのは、まさに文字通りの意味だ。彼はそうやって死んだのだから。この曲では、ピアノが前面に出ているけど、これは僕が歌うためのメロディ・ガイドみたいなものだと思う。だけどほとんど子供っぽいオーヴァーダビングとしてやってるね。最初に聴いたとき、そのトラックに魅かれたんだ」
──面白いですね。そういう意味では、インターネット上で誰かと一緒に仕事をしたことは、クリエイティヴな面でとても役に立ったのではないでしょうか?
「ああ、本当に直感的だったよ。自分にとっての合図として聴いたわけじゃない。パートとして聴いたんだ。それによって醸し出される雰囲気が作られていった。僕はその周辺で作業をして、歌詞と曲が流れ始めたら、自然に全体が出来上がっていったんだ」
──「Bang Bang Theory」に移りますが、“Trump, USA”を端的に表現したフレーズになっていますね。
「その通りだよ。アメリカでは、2019年に入ってから、不快な銃撃事件が次々と起こっていた。誰もがその話をしていたよ。僕はそれを別の視点から見てみたんだ。政治的にも社会的にも哲学的にも僕たちが今進んでいる極端な道は何か? 実際に何が起きているのか? 僕はある種非論理的な結論も導き出しているが、それはほとんど信じられるものだ。この曲だけはバック・トラックを作り直したんだ。原曲があまりに陽気だったからね」
──全部やり直した際のコラボレイターの反応はどうでした?
「そうだな、原曲の上にヴォーカルを乗せて録音していたから、彼はとても喜んでくれていた。だけどその後、やり直す理由を説明したら、完全に納得してくれたよ。なぜって……彼は僕にこう言ったんだ。“ゴドレイ、信頼してるよ!(In Godley we trust)”って」
──「Five Minutes Alone」も素晴らしいヴォーカルの曲で、ゴドレイのヴォーカルを信頼してます!
「僕の頭の中には〈ブラック・ミラー〉(★註2)のようなイメージがあったんだ。国際的な刑務官の組合がある世界だ。彼らはダークウェブ・サイトを持ち、愛する人を失った人たちに声をかけ、刑務所に来て、犯罪者と5分間二人きりで過ごさないかと誘うんだ。その様子は独房に設置されたカメラで撮影されているんだけど、たぶん外にはそれを見ている人がいるんだ」
──面白いですね。思っていたよりもかなり暗かったです。次に「Cut To The Cat」ですが、政治的な正しさについてです。最初は歌詞の一部を皮肉って笑っていたのですが、しだいに政治的正当性(political correctness)の危険性について考えるようになりました。
「政治的正当性という言葉は違う時代に生まれたもので、ロシアから来ているんだ。もともとは党の方針に従わなければならないという意味だった。その党が信じているものを壊してはならないし、メッセージ通りに行動しなければならない。それが今起こっているとこのように思う。非常に重要で対処すべきことがたくさん起こっているから、それは理解できる。だけどそれは自発性への権利を奪うことになる。笑いのネタが減ってしまうから、コメディにも悪影響が出るしね。昨日言って逃げられたことが、明日も逃げられるかどうか、100%わからないわけだから」
◉Kevin Godley / Muscul Memory(State51 Conspiracy / B08CSRRS C5 / 2020.12)
──「One Day」についても聞きたいのですが、実はこの歌詞は僕が一番嫌いな歌詞なんです。ここではすべてのアーティストがクラウドにAIアップロードしているから、いつか新しい音楽はなくなるだろうという考えでしょうか?
「まさにその通りだと思う。これはとある投資家に売り込もうとしている、AIを使ったアルゴリズム・ソフトウェアという製品の端的な説明のようなものだ。このソフトウェアを使えば、どんなレコーディング・アーティストのカタログも買うことができ、彼らは二度と仕事をする必要がない。なぜって、彼らがすでにやったことから同じスタイルの新しい音楽を生み出すことができるからね」
──まだそういう音楽はありませんが、AIが作った絵画が、クリスティーズで50万(ポンド?)で売れたそうです。
「ああ、その通りだよ。だから仕事がないんだ。もう誰も仕事をする必要がない。記事もAIが書いてくれるだろうし、悪い評価か、良い評価か入力するだけだ。そしてそれを実行する」
──タイトルはすでにあります。だから“In Godley We Trust”というタイトルをつけて、あとはAIに書いてもらう。これで完璧ですね!
「そうさ!」
Interview and text: Michael Bjorn AI-based transcription: otter.ai
★註1 : シャーロッツヴィルで起きた事件
2017年8月11・12日に米バージニア州シャーロッツヴィルで行われた極右集会“ユナイト・ザ・ライト・ラリー”は、大規模な白人至上主義集会で、非常事態宣言が出されるほどの混乱に陥った。集会に抗議する人たちに車が突っ込み、一人が死亡、38人が負傷する事態となった。また、近くで警戒にあたっていた警察のヘリコプターが墜落し、乗っていた二人の警察官が死亡した。
★註2 : 〈ブラック・ミラー〉
2011年からイギリスのチャンネル4で放送されたSFドラマ・シリーズ。その後、Netflixが購入し、新たなシーズンを制作し、全世界で配信された。近未来、急速な進化を遂げたテクノロジーがもたらす歪みと人間の業を描いている。
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